リドカイン全身投与:術後疼痛管理と早期回復のための効果的かつ安全な方法

Brent Earls, MD, and Lisa Bellil, MD著

リドカインは1943年に開発されて以来、麻酔科医の武器として多用されている。当初は抗不整脈薬として使用されていたが、痛みへの影響がすぐに発見された。1 痛みの軽減を示す最初の論文が発表されたのは1960年代であった。そして、現在のオピオイド使用の蔓延によるものや、早期回復プロトコールの採用、集学的な手術ケアの概念から、鎮痛のためのリドカインが再興してきた。慢性疼痛症候群での使用から開腹手術まで、リドカイン注入が取り入れられ、肯定的な結果と良好な忍容性が得られている。全身投与されたリドカインの抗侵害受容特性は、種々の実験的および臨床的な疼痛のコンディションにおいて繰り返し示されている。2-5 リドカインの全身投与が一部の癌患者において抗転移性の 利益をもたらすことを示唆する論文もある。6 リドカインは、中枢神経系において、神経インパルスを抑制するのに必要な血漿濃度をはるかに下回るレベルでグリシン様作用を有することが、複数の研究で示されている。慢性炎症状態におけるリドカインの役割に関しては、かなり最近の研究領域である。ナトリウムチャンネルアイソフォームの発現の変化が関与しており、リドカインは後根神経節のこれらの部位に作用すると考えられている。7 さらに、リドカインは、慢性疼痛状態の予防に寄与するN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体を調節することが示されている。8, 9 リドカインの治療指数は、いくつかの研究が行われており、2-10μg/mL2 で最適な効果があることが分かっている。また、投与合計時間に関しては、注入の開始から24~48時間である。患者の併存疾患、年齢、および患者毎に考慮すべき他の要因によって、この治療域の達成および維持が影響を受ける可能性がある。10

リドカイン注入は、様々な臨床転帰に影響を与えることが多数報告されている。Terkawiらは216人の患者を対象とした試験を行い、腹部または骨盤の手術を受ける成人において、リドカイン注入は疼痛スコアに関しては硬膜外鎮痛と同等であることを発見した。また、術後の悪心、嘔吐、掻痒、および尿閉の発生率も低いことも分かった。しかしながら、手術後96時間まで1時間当たり1mg/kgを投与されたリドカイン注入群は、0.125%のブピバカインと ヒドロモルフォン10μg/mLの組み合わせを投与された硬膜外鎮痛群と比較して全身オピオイド消費量が多くなった。11 胸部および腰部硬膜外鎮痛が遅い時期ではより優れた疼痛緩和をもたらすことに不思議はないが、静脈内(IV)リドカインが、脊髄幹麻酔を拒否する、または禁忌を示す患者にとって優れた代替手段であり、手術後2日にわたって優れた鎮痛を提供することが数々の研究で示されている11-13

リドカイン注入を行う場合は、各患者の禁忌の有無を確認するだけでなく、点滴投与前に、外科チームと投与計画について話し合うことが重要である(表1)。幸いなことに、リドカインは静脈内注射薬としての安全性について長年実証されており、この方法の有効性を調べる臨床試験で優れた忍容性が示されている。12,14,15

2015年、45の臨床試験を含むCochraneレビューが発表されたが、これは全身麻酔下の成人を対象に、持続的な周術期リドカイン注入の効果をプラセボまたは無治療のいずれか、または硬膜外鎮痛と比較したものである。このレビューにおける硬膜外鎮痛は、様々な種類・希釈の局所麻酔薬を対象としており、低用量オピオイドに関しては含有・非含有の両方の場合を含んでいる。結果としては、リドカイン注入群において、早期および中期の時点における術後疼痛の軽減、消化管の迅速な回復時間、術後の悪心/嘔吐およびオピオイドの使用の減少、ならびに入院期間の短縮が示唆された。16 リドカインを使用した研究においては、副作用に関するデータは十分な数を認めなかった。しかし、報告された有害事象のほとんどは、ふらつき、耳鳴り、あるいは頭痛に限られていた。また、これらの試験から報告された重篤な有害事象、またはレビューした試験の治療群で報告されたリドカイン注入に関連する不良な手術転機はなかった。40件を超える試験が本レビューに含められたにもかかわらず、この治療法で期待できる臨床効果を記述するためには、より質の高いエビデンスが必要であるといえる。このCochraneレビューでは、低~中程度のエビデンスを有すると結論づけられた。著者らはまた、最適な用量、副作用、およびタイミングを評価する研究が不足していることを指摘した。今後さらなる研究が、効果の推定の信頼性に重要な影響を及ぼす可能性があると述べている。16

Rimbäckらは、1990年代初めに予定胆嚢摘出術を受けた30人の患者において、リドカイン全身投与(3mg/min)と生理食塩水のプラセボとを比較している。その研究から、オピオイドの必要性の減少、腸管機能の早期回復、および入院期間の短縮という結果が見出された。このグループは、腹膜刺激作用が少ないために抑制性の消化管反射が減少するという機序を提唱した。14 いくつかの無作為化プラセボ対照臨床試験によって、静脈内リドカイン投与が同様に術後腸閉塞の時間および麻薬性疼痛管理の必要性を減少させ、それにより退院を早めることが実証されている。12,14,15,17 この初期の研究で、Rimbäckらはリドカイン注入が、交感神経反応および関連する炎症性カスケードを抑制することによって炎症を減少させる可能性があることを示唆している。

Herroederらは、結腸直腸手術を受ける60人の患者において、二重盲検、無作為化、対照研究を行った。この研究ではリドカイン全身投与(1.5mg/kgボーラスの後に2mg/分の点滴)を行った結果、患者の入院期間は短縮され、腸管機能が早期に回復した。また、リドカイン全身投与群において、種々の炎症性サイトカイン値の低下を示した。15 この研究では、局所麻酔薬の中枢性鎮痛作用だけでなく、抗炎症作用も確認できたといえる。炎症性メディエーターの有意な減少は、腸管機能および術後腸閉塞だけでなく、血栓症、術後心筋梗塞および敗血症にも影響を及ぼすことが判明している。18

Medstar Georgetown University Hospitalでは、バランス麻酔の計画の一環として、リドカイン注入を積極的に採用している。一部の外科医が、定常的にリドカイン注入をその周術期治療プロトコールに組み込んでおり、以下にその概要を示す。当施設の早期回復プロトコルの基本構成として、アセトアミノフェン、ガバペンチンおよびセレコキシブにリドカイン注入が組み合わせて使用されている。このプロトコルは、もともと結腸直腸手術19 または胆嚢摘出術を受けているほとんどの患者のケアに組み込まれていたが、腹部手術を受けていない特定の患者への使用に関しても成功してきている。患者は、候補の薬剤それぞれについて個別に投与するかを評価される。リドカインに対する禁忌を除外するために、徹底的な病歴聴取と身体検査が行われる(表1)。

表1:リドカイン注入の禁忌26

リドカインに対する過敏症またはアレルギー
重篤な心疾患(例:2度または3度の心臓ブロック、 例外:ペースメーカーを装着した患者)
重度の心不全(駆出率 <20%)
アダムス・ストークス症候群、ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群または活動性不整脈の既往
3ヶ月以内にクラスⅠ抗不整脈薬またはアミオダロンを使用した場合
重度の肝障害(ビリルビン > 1.46mg/dl)
重度の腎障害(<30mL /分/1.73m2 またはESRD)
コントロール不良な痙攣の既往
急性ポルフィリン症

麻酔導入中、全身投与は、理想体重(IBW)1-1.5mg/kg を1回ボーラス投与して開始され、その後1時間当たり2mg/kg(IBW)で注入が開始される。この速度は、開始から4時間継続され、その後は1時間あたり1mg/kgに減量して残りの点滴期間継続される。最初の4時間後に注入速度を下げることは、リドカインの毒性レベルを回避する有効かつ簡単な方法だが、疼痛管理のための治療濃度は維持されることが分かっている。20 リドカインの生体内変換により、代謝物であるモノエチルグリシンキシリド(MEGX)およびグリシンキシリダイド(GX)が生成される。これらの代謝産物の全身作用はリドカイン自体と同様であるが、リドカイン自体よりも効力が低く、リドカインとの同時投与時に最も顕著に効果が現れる。これらの代謝産物の薬物動態は、肝硬変患者では減弱する可能性があり21 Pughスコアよりも鋭敏な肝機能障害の指標としても提案されている。22

患者が回復室へ移送された後は、急性期疼痛治療サービスがリドカイン注入の管理を引き継ぐ。これは、局所麻酔薬中毒を早期に認識するという、注入を行っている間の安全性を維持するための重要な段階である。スタッフは頭のふらつき、めまい、視覚・聴覚障害、金属味について少なくとも4時間おきに監視し、いかなる問題にも常時対応する。残念なことに、当施設の臨床検査プロセスでは血清リドカインを外注検査として処理しているため、結果を得るまでに最大3日かかり、臨床現場での使用が制限されている。したがって、スタッフが早期の中毒徴候を認識した、またはその疑いがある場合は、注入を中止し、継続的な遠隔監視を行うため患者を中間ケアユニットに移送する。プロトコルでは、American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicineによって出版された局所麻酔薬全身毒性(Local Anesthetic System Toxicity: LAST)チェックリストを利用している。23 追加予防措置として、緊急時に迅速に患者が注入を受けられるように各フロアに配置された自動投薬分配システムに薬局が20%静注脂肪乳剤を配備している。リドカイン血中濃度測定が臨床的に有効な時間枠内で処理できない以上、危険な臨床的徴候を認識し、治療を早期に開始することが重要である。これらの徴候として、低血圧、痙攣、意識消失があり、遅発性の徴候には呼吸停止および不整脈または心停止が含まれる。24 これらの徴候が確認された、あるいは疑われた場合、急性疼痛サービスの医師に直ちに通知され、脂肪乳剤が必要かが決定される。2017年秋に実施されてから今日まで、リドカイン注入プロトコルを使用して重大な合併症は発生していない。この疼痛管理の注入速度を用いて公表された臨床試験では、限定的で軽微な症状しか示されていない。患者がふらつき、めまい、耳鳴り、金属味が口に残っていることなどの症状を伝えた場合、直ちに注入を中断すれば改善する。現時点では、経常的な遠隔監視は必要なく、我々としては連続的なパルスオキシメトリを使用して患者を病棟階で監視することを推奨する。リドカイン注入は開始から24~48時間続けられるが、これは我々が検討したほとんどの公表された試験で報告されている最適な臨床効果と一致している。11-15,17,18,25 我々の急性疼痛サービスは、患者にさらなる安全を提供し、必要に応じて疼痛管理を継続して支援するために投与後一日間フォローアップを継続している。

Dr. Earlsは、Medstar Georgetown University HospitalのR2(PGY-2)麻酔科医である。

Dr. Bellilは、Medst Georgetown University Hospitalの麻酔科の産科麻酔のディレクターであり、以前は同施設で急性疼痛サービスのディレクターおよび助教授(日本の講師・助教に相当)を務めていた。


両名の著者とも、この記事に関連する利益相反の開示はない。


ゲスト編集者のUniversity of Chicago急性疼痛サービスディレクターおよび麻酔・救命救急科助教授(日本の講師・助教に相当)であるDr. David Dickersonに特別な謝辞を送る。


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