上部消化管内視鏡検査中の低酸素:まだ改善の余地あり

編集者注:このLetter to the Editorでは、投稿者は上部消化管内視鏡検査中の適切な酸素化と換気維持における課題を詳述している。このトピックは、今期のニュースレター(6ページ参照)の非手術室麻酔に関する特集記事に関連している。

Letter to the Editor:

内視鏡室

内視鏡室

上部内視鏡検査の時の麻酔は、「単純な」食道十二指腸鏡検査(EGD)であっても、いくつかの理由で困難で、高いリスクを秘めた麻酔である。それらは「共有気道」に定義される症例である。患者は通常、側臥位、半腹臥位、腹臥位になり、麻酔科医の気道へのアクセスが大幅に制限されるため、これらは「気道アクセスの低減」症例でもある。歯はバイトブロックによって外れることがある。根底にある病態(食道逆流、嚥下障害、食物の影響、消化管出血、貧血、肥満手術の準備)は、これらの患者を気道関連合併症のリスクにさらしている。多くは、気道の緊急事態の場合に必要な麻酔器がない処置室で、手術室のバックアップリソースから離れた場所で行われる。内科医がモニター画面を見やすくするために部屋は暗くなっている。多数の症例、迅速な処置時間、そして部屋の回転へのプレッシャーは、麻酔科医に時間的なストレスを与え、早く鎮静しようとする誘惑につながる可能性があり、それは鎮静薬の量を“つみ重ねる”事になり、結果として望ましいレベルの鎮静よりも深くなる。コンピュータ化された麻酔記録は、麻酔チームの気を散らすものとなることがあり、コンピュータ画面に向くために患者に背を向けさせることがしばしばある。

上部内視鏡検査では、嘔吐、咳、および喉頭痙攣の反射を抑制するために、特に内視鏡を最初に挿入したときに、全身麻酔に近い非常に深い鎮静が必要なことがよくある。その後、刺激のレベル(および鎮静の深さ)は突然かつ著しく変化する可能性がある。大きな異物である内視鏡が気道―消化管に配置され、しばしば部分的な気道閉塞を生じるため、上部内視鏡検査はまた、定義上、異物による気道閉塞症例である。鎮静は上気道の筋緊張を減少させ、それは麻酔科医が一般的に管理しなければならない気道を虚脱させるかもしれない。1

一般的に使用されている成人の食道胃内視鏡の直径は8.8〜11 mmである。2 円の面積の公式を適用すると、A= π r2で、 9 mmの内視鏡の断面積は、CT検査による気道の断面積を超えることがよくある。3,4 それにより、かなりの割合の患者において、気道の部分的または完全な閉塞のリスクがある。Guardus®Overtube(US Endoscopy、メンター、オハイオ州)は、内視鏡の上で食物の影響を除き気道と分離する透明なプラスチック製のチューブ状装置で、最大外径19.5 mmである。5

上部内視鏡検査のための鎮静におけるもう一つの大きな課題は、酸素供給システムに制限があることである。上部内視鏡検査では一般的な酸素フェイスマスクは、内視鏡医による口へのアクセスの妨げとなるため、通常は使用されない。多くの場合、酸素供給の方法は最も効果が低いものが使われている:それは経鼻カニューレ(または、経口カテーテルによる送気)である。

標準な経鼻カニューレは5〜6 L/minの最高酸素流量で使用することが推奨される。6短期間の、より高流量の使用でさえ、鼻孔の不快感と鼻出血の原因となる乾燥のため耐え難いものである。酸素流量6〜7 L/minの経鼻カニューレは、約0.44-0.62の最高吸入酸素濃度を提供する。6 鼻閉、鼻ポリープ、鼻中隔偏位などの他のよくある臨床症状は、経鼻カニューレからの酸素供給をさらに減少させる可能性がある。対照的に、酸素流量9〜15 L/minの非再呼吸リザーバーを持つ酸素フェイスマスクは、はるかに高い約0.90〜0.95の吸入酸素分画を快適に提供する。

気道への侵襲の問題および限られた酸素供給の可能性を考えると、鎮静下での上部内視鏡検査中の気道管理は、その本質上、「高リスク」である。したがって、麻酔科医は、手術室で全身麻酔を必要とする患者へのアプローチと同じように、「安全な無呼吸時間」と「最大preoxygenation」の原則を心に留めてこれらの症例に取り組むべきである。

「安全な無呼吸時間」とは無呼吸になってからSpO2が 90% 以下に低下し、酸素ヘモグロビンの脱飽和曲線が急峻な部分に達し、非常に低いレベルになるまでの時間と定義される。健康な成人における安全な無呼吸時間は、約1分未満である。7 しかし、酸素運搬能力の低下(例えば、貧血、肺疾患、肥満、心拍出力の低下、機能的残留量の低下)や、酸素需要の増加(発熱、代謝亢進状態)の患者は、より速く低酸素になる。8-10

何十年もの間に、「最大preoxygenation」の単純な技術によって、安全無呼吸時間を2倍あるいは3倍にさえすることができることが確立されてきた。7〜9 Dr. Jonathan Benumofは、Anesthesiology の古い1999年のエディトリアルで次のように書いている。「全身麻酔の導入前に最大限にpreoxygenationする目的は、患者が無呼吸に耐えることができる最大時間と、麻酔科医が換気困難あるいは挿管困難の状況を解決する時間を提供することである。さらに、換気/挿管困難の状況はほとんど予測不可能であるため、最大限にpreoxygenationすることが望ましいということは、理論的にはすべての患者に当てはまる。」10 Dr. Benumofは可能な限り積極的に最大限のpreoxygenationをすることを推奨した。preoxygenationは多くの臨床医にとって、すべての全身麻酔導入(すなわち医原性無呼吸)の前の標準的な手技である。8,9

効果的な最大preoxygenationのために認められた方法がいくつかある。10,11 麻酔科医によって使用される多くの方法は、フィットした酸素マスクを通じた酸素流(> 10 L/min)を必要とする。最も効果的かつ効率的な方法は、Barakaによって記載された「8 DB/60 sec」(60秒間に8回の深呼吸)方法かもしれない。10,11特にこれが簡単にできて費用対効果が高いということもあり、Dr,Benumofの論理は、手術室で無呼吸による潜在的な危険性が高い状況で何十年もの間、患者管理にとって非常に役立ってきた。

近年、上部内視鏡検査のために特別にデザインされた何種類かの酸素マスクがある。1 これらの酸素マスクはカプノグラフィモニターの機能と内視鏡の容易なアクセスを提供しながら確実に高い酸素濃度を提供する。

カプノグラフィーとアラームは、患者が私たちの方を向いていない暗い部屋でさえ、重症の低換気の迅速な診断を可能にする。現在、深い鎮静を開始する前にほぼ最大のpreoxygenationを提供するという目標を達成するために利用可能な内視鏡用酸素フェイスマスクやその他のデバイスが存在する。これらの装置は、重症低酸素症の発症前に、介入するための安全な無呼吸時間を延長できるかもしれない。1

私たちが担当する患者の安全性を向上させるには、継続的に私たちの手技を見直すことと、可能な限り改善しようとする意欲が必要である。1955年以来、我々は安全な無呼吸時間を延長するために利用可能な簡単な方法、「最大preoxygenation」を持っていた。12 2019年では、呼吸低下の誘発と上気道を閉塞する内視鏡の挿入の前に、ほぼ「最大のpreoxygenation」の実施を可能にする機器がある。Dr. Mark Warnerは、「2019年会長報告」で、「患者は麻酔によって害されてはならない」というAPSFのビジョンを再確認し、「この高貴な使命」に取り組み続けるよう我々全員に課した。13 したがって、私たちの目標は上部内視鏡検査中の低酸素を許容しないことであるべきである。そこにはまだ改善の余地がある。

 

René Miguel Gonzalez、MDはHackensack Meridian Southern Ocean Medical Centerのスタッフ麻酔科医である。


著者は、この記事に関し利益相反はない。


参考文献

  1. Goudra B, Singh PM. Airway management during upper GI endoscopic procedures: state of the art review. Dig Dis Sci. 2017;62:45–43.
  2. Flexible endoscope general diameter guide. Available at: www.healthmark.info/Flexible_Scopes_General_Diameter_Guide.pdf. Accessed February 25, 2019.
  3. Avrahami E, Solomonovich, Englender M: Axial CT measurements of the cross-sectional area of the oropharynx in adults with obstructive sleep apnea syndrome. Am J Neuroradiol. 1996;17:1107–1111.
  4. Li H, Lo Y, Wang C, et al. Dynamic drug-induced sleep computed tomography in adults with obstructive sleep apnea. Scientific Reports 2017. Available at: www.nature.com/scientificreports. Accessed February 25, 2019.
  5. Guardus overtube. Available at: www.usendoscopy.com/products/guardus-overtube. Accessed February 25, 2019.
  6. Wettstein R, Shelledy D, Peters J. Delivered oxygen concentrations using low-flow and high-flow nasal cannulas. Respiratory Care. 2005;50:604–609.
  7. Drummond GB, Park GR. Arterial oxygen saturation before intubation of the trachea—an assessment of techniques. Br J Anaesth. 1984;56:987–9.
  8. Bouroche G, Bourgain JL. Preoxygenation and general anesthesia: a review. Minerva Anestesiol. 2015;81:910–920.
  9. Sirian R, Wills J. Physiology of apnoea and the benefits of preoxygenation. Continuing Education in Anaesthesia Critical Care & Pain. 2009;9:105–108.
  10. Benumof JL. Editorial views. Preoxygenation: best method for both efficacy and efficiency? Anesthesiology. 1999; 91:603–605.
  11. Baraka AS, Taha S, Aouad M, et al. Preoxygenation: Comparison of maximal breathing and tidal volume breathing techniques. Anesthesiology. 1999;91:612–616.
  12. Hamilton W, Eastwood D. A study of denitrogenation with some inhalational anesthetic systems. Anesthesiology. 1955;16:861–867.
  13. Warner, MA. 2019 President’s report: taking action. APSF Newsletter. 2019;33:69–71. https://dev2.apsf.org/article/2019-presidents-report-taking-action-apsfs-renewed-commitment-to-implementation-of-changes-that-can-improve-perioperative-patient-safety/. Accessed April 8, 2019.