麻酔中の患者モニタリング推奨事項の改訂に関するAPSF承認ステートメント

APSF技術委員会。

この声明は、APSF技術委員会によって作成され、APSF理事会によって承認されました。

APSF技術委員会は、世界中のいくつかの学会や協会から発表された、麻酔管理中の患者モニタリングに関するステートメント*をレビューした。麻酔中の患者安全に地域は関係ないことから、委員会では、さまざまなステートメント間にみられる不一致は取り上げられ、適切に改訂されるべきだと考えている。患者安全と関わりの深い、モニタリングに関するステートメント間にも明らかな相違がみられる。1,2患者モニタリングに関して、以下の推奨事項がAPSF理事会によって審議・承認された。

本ステートメントの主要な目的は、患者安全を強化すると考えられているにも関わらず、一部の学会のステートメントには含まれていないモニターを特定することである。副次的な目的は、麻酔を受ける全ての患者が最善のモニタリングを受けられるように、世界中の麻酔関連学会のガイドラインを調和させる努力を、各学会に促すことである。

本ステートメントは、モニタリングのスタンダード決定することは意図していない。また、主にエキスパートコンセンサスに基づいている。最近の出版物や総説では、臨床診療をサポートおよび強化するガイドライン作成時の、エキスパートコンセンサスの役割が強調されている。3,4 実際に、最初に作成された患者モニタリングのスタンダードは、エキスパートコンセンサスに基づいたものであり、現在もなお麻酔関連死亡の削減効果が十分に認められている。5 さらにAPSFは、望ましいモニタリングは最終的には利用可能な機器によって決まるものであり、地域によっては単純に機器が足りないがためにこれらの推奨事項を順守できない可能性があることも認識している。それでも、機器が入手可能となった際に、推奨事項を順守できるようにと麻酔専門職が導入を要求するうえで、本ステートメントが役立つことを期待している。

背景

全身麻酔中の患者安全を保つには、臓器灌流と酸素化を維持することが求められる。この目標を達成するには、血行動態、換気、酸素化をモニタリングする必要があるが、その大部分のモニタリングについては、APSF技術委員会がレビューした全ての学会のモニタリングステートメントでその必要性に言及している。

しかし、患者の安全を保障するには、薬物によって意識がない状態としたうえ、多くの場合に不動化も要する。臨床的な目標に対して適切な用量の薬物を投与することは、安全な管理のために必要不可欠である。投与量が少ないと、術中覚醒したり、手術の重要な場面で患者が動いたりする可能性がある。投与量が多いと、好ましくない生理学的変化(低血圧など)や術後の効果残存(残存筋弛緩など)を引き起こすおそれがある。薬物の効果や好ましくない残存作用のモニタリングの重要性についての記述が、さまざまな学会のステートメント間にみられる最も明白な相違であった。本稿では、患者安全に関するこれらの懸念についてAPSF技術委員会が一つ一つ簡潔にレビューし、既存ステートメントの改訂を促すために推奨を提示する。

患者安全の向上を目的に既存のモニタリングステートメントを改善するための具体的な推奨事項

I. 術中覚醒の予防-吸入麻酔

患者安全の脅威:全身麻酔中、患者は意識がない状態になることが期待されている。術中覚醒や術中記憶は、患者にとって重大かつ明確な有害事象といえる。

0.7 MAC以上の吸入麻酔薬を使用することが、筋弛緩薬を投与されている患者で術中覚醒を防ぐための唯一かつ最善の方策である。このことは数多く報告されている。6-11 国際標準化機構(ISO)が、吸入麻酔薬を投与する麻酔器にはその呼気終末濃度を測定することをすでに求めているため、この要件を組み込んでスタンダードを改訂することは、簡単かつ安価にできるはずであるし、患者安全の主要な課題に対処し、国際的なモニタリングのスタンダードと調和することになる。

血行動態が不良で、0.7 MACで吸入麻酔薬を維持できない患者もいる。このような患者では、術中覚醒リスクをモニタリングすることは特に説得力を持つ。このような場合は、脳波に基づく麻酔深度モニターを用いて適切な麻酔深度が確実に得られるようにする。

提唱するモニタリング:

  • 吸入麻酔薬を投与する際は常に呼気終末濃度を測定し、低濃度アラームが利用可能であれば作動させておく。
  • 吸入麻酔薬の投与中に筋弛緩薬を併用する場合は常に、0.7 MACを維持できないなら脳波に基づく麻酔深度モニターを使用し、低麻酔深度アラームが利用可能であれば作動させておく。
  • 脳波に基づくモニターが装着できないか、もしくは効果的に使用できない術式(脳神経外科手術など)の場合は例外とする。

II. 術中覚醒の予防–静脈麻酔

患者安全の脅威:筋弛緩薬を投与されている患者で術中覚醒が報告されてきた。実際に、主要な麻酔薬として吸入麻酔薬よりも静脈麻酔薬(ほとんどの場合プロポフォール)を使用した場合のほうがリスクが高い。過少投与は、技術的なエラーのほか、患者集団内における薬物本来(および併用する薬物との組み合わせ)の薬物動態学的・薬力学的ばらつきに加えて、薬物濃度を継続的かつ日常的に測定できないため生じうる。

全静脈麻酔に筋弛緩薬を組み合わせる場合は常に、術中覚醒の可能性を低減させるため脳波に基づく意識状態のモニター(麻酔深度モニター)が必要である。脳波分析処理に基づいた麻酔深度モニターは、静脈麻酔薬の作用と術中覚醒の可能性を評価するうえで現在最も広く利用かつ研究されているデバイスである。脳波からは、スペクトルエッジの算出や密度、圧縮スペクトルアレイ表示のほか、バイスペクトラルやpatient state indicesなどの指標を含むさまざまなパラメータが抽出される。静脈麻酔薬の効果についての見解を得るために脳波に基づくモニターを求めることは、患者安全に関する重要な課題に対処することになり、国際的にモニタリングのスタンダードを調和させるうえで役立つ。

提唱するモニタリング:

  • 全静脈麻酔中に筋弛緩薬を投与する場合は常に、薬物の効果を脳波に基づくモニターで観察することが推奨され、アラーム閾値が設定可能であれば作動させておく。
  • 脳波に基づくモニターが装着できないか、もしくは効果的に使用できない術式(脳神経外科手術など)の場合は例外とする。

III.術後の残存筋弛緩

患者安全の脅威:筋弛緩薬は薬物動態学的・薬力学的なばらつきが大きい。したがって、筋弛緩薬が投与されていれば常に、手術終了時に筋弛緩効果が残存しており患者の安全が脅かされる可能性がある(気道閉塞や誤嚥など)。筋弛緩の定量的モニタリングは、定性的モニタリングや主観的モニタリングよりも利点が多いことは数多く報告されており、推奨されている。APSFは、いかなる種類の筋弛緩モニタリングも、筋弛緩薬使用時にモニタリングを全く行わない場合と比較して患者安全を向上させると考えている。

提唱するモニタリング:

  • 筋弛緩薬を投与する際は常に筋弛緩モニターを装着し、使用する。定量的モニタリングが定性的モニタリングよりも好ましい。

IV.気道内圧モニタリング

患者安全の脅威:過度の気道内圧は肺の圧外傷を引き起こすおそれがある。肺の外傷を最小限に抑える手段として、肺保護換気が注目されている。気道内圧のモニタリングは全ての学会が推奨しているわけではない。人工呼吸器の製造規格では気道内圧のモニタリングが求められているため、機器メーカーおよびそれを使用する麻酔専門職にとって、この推奨事項を順守することは大きな変更ではない。APSFは、患者のモニタリングを完全なものにするため、そしてこの重要なパラメータの認識を深めるために、気道内圧モニタリングを患者モニタリングステートメントに含めることを提唱している。

提唱するモニタリング:

  • 人工呼吸器で呼吸管理をする際には、気道内圧を測定できる装置を継続的に使用する。呼吸回路の接続外れや、危険なほど高い気道内圧を検知するアラームが利用可能であり、作動させておかなければならない。アラーム閾値を超えた場合、装置はアラーム音を発しなければならない。

 

参考文献

  1. Hendrickx JFA. Anesthetic monitoring recommendations: How consistent are they across the globe? APSF Newsletter. 2019:34;34–36. https://dev2.apsf.org/article/anesthetic-monitoring-recommendations-how-consistent-are-they-across-the-globe/ Accessed on December 27, 2021.
  2. Hendrickx JFA, Feldman J, Schueler HU. Anesthetic monitoring recommendations during general anesthesia: How consistent are they across the globe? In: ESA Patient Safety and Quality Committee. Ten years of the “Helsinki Declaration on Patient Safety in Anesthesiology”—An expert opinion on various perioperative safety aspects. European Journal of Anaesthesiology. 2020;37:521–610.
  3. Laserna A, Rubinger DA, Barahona-Correa JE, et al. Levels of evidence supporting the North American and European perioperative care guidelines for anesthesiologists between 2010 and 2020: a systematic review. Anesthesiology. 2021;135:31–53.
  4. Neuman MD, Apfelbaum JL. Clinical practice guidelines in anesthesiology: adjusting our expectations. Anesthesiology. 2021;133:9.
  5. Cullen D, Cooper J, Eichhorn J, et al. Expanding on the origins, evolution, and spread of anesthesia monitoring standards. Anesth Analg. 2021;133:e14–e15.
  6. Sani O, Shafer SL. MAC attack? Anesthesiology. 2003;99:1249–1250.
  7. Dilger JP. From individual to population: the minimum alveolar concentration curve. Curr Opin Anaesthesiol. 2006;19:390–396.
  8. Katoh T, Ikeda K. The effects of fentanyl on sevoflurane requirements for loss of consciousness and skin incision. Anesthesiology. 1998;88:18–24.
  9. Sonner JM. Issues in the design and interpretation of minimum alveolar anesthetic concentration (MAC) studies. Anesth Analg. 2002;95:609–614.
  10. Chortkoff BS, Gonsowski CT, Bennett HL, et al. Subanesthetic concentrations of desflurane and propofol suppress recall of emotionally charged information. Anesth Analg. 1995;81:728–736.
  11. Eger EI II, Sonner JM. How likely is awareness during anesthesia? Anesth Analg. 2005;100:1544 [letter].

付録:

本ステートメントのためにレビューした専門学会のスタンダード

Standards for basic anesthetic monitoring. Committee of Origin: Standards and Practice Parameters. Approved by the ASA House of Delegates on October 21, 1986, last amended on October 20, 2010, and last affirmed on October 28, 2015.

American Association of Nurse Anesthetists (AANA). Standards for Nurse Anesthesia Practice. (2019) Standard 9, Monitoring and Alarms. https://www.aana.com/docs/default-source/practice-aana-com-web-documents-(all)/professional-practice-manual/standards-for-nurse-anesthesia-practice.pdf?sfvrsn=e00049b1_20.

Checketts MR, Alladi R, Ferguson K, et al., Association of Anaesthetists of Great Britain and Ireland. Recommendations for standards of monitoring during anaesthesia and recovery 2015. Anaesthesia. 2016;71:85–93.

European Board of Anaesthesiology (EBA) recommendations for minimal monitoring during anaesthesia and recovery. UEMS Anesthesiology Section, European Board of Anaesthesiology (EBA). http://www.eba-uems.eu/resources/PDFS/safety-guidelines/EBA-Minimal-monitor.pdf

Guidelines on monitoring in anaesthesia. Version 5, May 2017. Document No. HKCA– P1 – v5. Prepared by College Guidelines Committee. Endorsed by HKCA council. Next Review Date 2022. https://www.hkca.edu.hk/wp-content/uploads/2020/12/Resources-college_guideline-P1.pdf

Australia and New Zealand College of Anaesthetists (ANZCA), Recommendations on monitoring during anesthesia. PS 18, 2013. https://www.anzca.edu.au/getattachment/0c2d9717-fa82-4507-a3d6-3533d8fa844d/PG18(A)-Guideline-on-monitoring-during-anaesthesia.pdf

Standards of practice and graduate competencies, International Federation of Nurse Anesthetists (2016). https://ifna.site/ifna-standards-of-education-practice-and-monitoring

Gelb AW, Morriss WW, Johnson W, et al. International standards for a safe practice of anesthesia workgroup. World Health Organization-World Federation of Societies of Anaesthesiologists (WHO-WFSA) International Standards for a Safe Practice of Anesthesia. Can J Anaesth. 2018;65:698–708.

ISO standard 80601-2-13:2011 AMD 1 2015 AMD 2 2018; Medical electrical equipment — Part 2-13: Particular requirements for basic safety and essential performance of an anaesthetic workstation.