オピオイド管理における麻酔専門家の役割

Adam C. Adler, MD; Arvind Chandrakantan, MD, MBA
サマリー: 

オピオイド処方は、オピオイドの全国的な蔓延において重要な役割を果たしてきた。具体的には、周術期のオピオイド処方の調査は、過少と過剰処方の両方がかなりあることを示唆している。オピオイドの術前使用は、周術期の合併症と死亡率の増加、ならびに術後乱用リスクと関連している。さらに、術後に残ったオピオイドは、小児の誤飲と成人の乱用リスクとなる。麻酔専門家は、乱用または誤用のリスクがある患者をスクリーニングするだけでなく、安全なオピオイドの保管と廃棄に関する患者への教育を行う独自の立場にある。

はじめに

Anesthesiologist医療専門家が処方したオピオイドは、増え続けるオピオイドの蔓延において重要な役割を果たしている。2017年には、米国で70,000を超える薬物関連死が発生し、47,000以上がオピオイドによるものであった。1 オピオイドによる死亡事例は、乳がん、銃、自動車事故による死亡数を上回っている(表 1)。National Institutes of Healthによれば、オピオイド蔓延によってかかる年間推定費用は、ヘルスケア、生産性低下、依存症の治療、刑事司法関連の費用を含め、785億ドルを超える。1

表 1:米国の一般的原因における死亡率の比較

死因(年) 報告年別死亡数 日別死亡数
オピオイド(2017) 47,6001 130
乳癌(2016) 41,487* 113
銃器(2017) 39,773† 109
自動車事故(2018) 36,560‡ 100

*CDC データ 2016: https://gis.cdc.gov/Cancer/USCS/DataViz.html
†NHTSA: https://www.nhtsa.gov/traffic-deaths-2018
‡CDC: https://www.cdc.gov/nchs/fastats/injury.htm

オピオイド依存の要因として、医学的に処方されたオピオイドとの関連性が指摘されている。具体的には、周術期のオピオイド処方の調査は、過少と過剰処方の両方がかなりあることを示唆している。ある研究によると、術後の痛みのリスクが低い外科的処置後(例: 手根管解放術、腹腔鏡下胆嚢摘出術、鼠径ヘルニア修復、または膝関節鏡検査)に、オピオイド未使用の成人患者の80%がオピオイドの処方を受けたことが示唆されている。2 さらに、2004年から2008年にかけて、これら低リスク手術後の平均処方量は増加していった。2 手術を受けた 88,637名のオピオイド未使用の13〜21歳の思春期・若年成人を対象とした研究では、低リスク手術後、その4.8%に90日間オピオイド処方が継続されていることが明らかになった。3

医療従事者とオピオイド処方の予期せぬ結果

医療専門家によって処方されたオピオイドによって、小児のオピオイド関連中毒事例が多数生じたとされている。4 2000年から2015年にかけて、20歳未満を対象にNational Poison Data Systemに報告されたオピオイドに関連した問題は188,468例あった。4 小児の中で最も危険なのは、0〜5歳と12〜17歳の思春期で、小さな子供は偶発的摂取の危険があり、思春期の子供は意図的に摂取する。4 小児のオピオイド摂取によって、2004年から2015年の間に3600件を超える小児集中治療室への入院が起こっている。5

手術後の未使用オピオイドは、治療以外での使用や偶発的な摂取の可能性を生み、成人および小児患者を危険にさらすことになる。手術後に処方されたオピオイドに関する研究のメタアナリシスでは、オピオイド錠の42〜71%が使用されなかったことが示されている。6 これら未使用のオピオイドの大多数は、家庭で適切に保管されていないことが多く、乱用や誤用の原因となる。6

整形外科手術を受けた成人を対象とした研究では、オピオイドの術前使用が次に述べる周術期合併症の増加と関連していることを示している : 呼吸不全、手術部位感染、人工呼吸の必要性、肺炎、心筋梗塞、術後イレウスまたは他の胃腸イベント、および全死亡率の増加。7 さらに、術前に患者家族が長期間オピオイドを使用していることと、オピオイドを使用したことがない思春期・若年成人が外科及び歯科処置後に処方されるオピオイドを長期使用することは関連している。8 これらのオピオイドを誰が使用しているかは不明だが(患者か家族か)、どちらのグループによるオピオイド長期使用も軽減するために、医師はオピオイドを処方する前に患者をスクリーニングすべきであることを示唆している。

周術期には、医療専門家は独自の立場で、オピオイド管理に関する重要な問題に取り組むことができる(表2)。麻酔専門家は通常、最近患った病気、喫煙、違法薬物の使用について患者をスクリーニングする。周術期には、患者の個人的なオピオイド使用歴や、乱用や誤用リスクがある家庭でのオピオイドの処方歴について問診することで、オピオイドのリスクを確認できる場合もある。さらに麻酔は、オピオイドの危険性と適切な保管と処分方法について患者を教育する機会を提供する。

表 2:オピオイドの安全性を高め、リスク評価を行うための周術期の提案

  • オピオイド使用歴および乱用について患者をスクリーニングする
  • オピオイド乱用リスクがある患者家族を特定する
  • 適切に保管されていないオピオイドの危険性について患者と家族を教育する
  • 急性期後のオピオイドの適切な処分方法について話し合う
  • 非オピオイド補助薬の使用について周術期の処方者と話し合い、処方された調剤数について注意深く検討することを推奨する。

オピオイドクライシス対処における自身の経験

図 1:オピオイド管理の教育から回収までのプロセス。

図 1:オピオイド管理の教育から回収までのプロセス。

私達の施設では、最近、患者と家族の教育を、家族の未使用薬の処分という簡単な方法と組み合わせることによって、オピオイドクライシス対策として取り組んだ。9 本プロジェクトでは、患者が未使用のオピオイドを返送できるよう、事前に宛名付の送料元払い封筒を用意し、手術の2週間後に自動通知メールを送信した。これは安全な保管と廃棄に関する、患者と親への教育と合わせて行われる。このパイロット的取り組みでは、参加者 331人のうち64人が未使用のオピオイドを返却し、合計で経口モルヒネ換算約3000 mgがこれらの家から取り除かれたことになる(図1)。返却されたオピオイドの中央値は、処方量の58%(四分位範囲= 34.7%–86.1%)だった。薬物返却の可能性増加に関連する人口統計学的な変数は、コーカソイド、既婚、大学院学位保持者であった。現在、私達は薬学チームと協力し、退院時にオピオイドを投与されている全ての周術期患者を本プロジェクトに登録し、小児における処方をより大規模に把握できることを期待している。

結論

州独自の処方監視プログラムの実施を通じて追跡を行い、オピオイドの処方を減らす努力がなされてきた。麻酔専門家は、周術期のオピオイド関連の安全性問題に対し、独自の立場にある。リスクのある患者を特定し、患者と家族に安全なオピオイドの保管と廃棄について教育し、適切な投薬を推奨することで、患者の摂取を減らすことができる。

参考文献

  1. Scholl L, Seth P, Kariisa M, et al. Drug and opioid-involved overdose deaths – United States, 2013–2017. MMWR. 2018;67:1419–1427.
  2. Wunsch H, Wijeysundera DN, Passarella MA, Neuman MD. Opioids prescribed after low-risk surgical procedures in the United States, 2004-2012. JAMA. 2016;315:1654–1657.
  3. Harbaugh CM, Lee JS, Hu HM, et al. Persistent opioid use among pediatric patients after surgery. Pediatrics. 2018;141:e20172439
  4. Allen JD, Casavant MJ, Spiller HA, et al. Prescription opioid exposures among children and adolescents in the United States: 2000–2015. Pediatrics. 2017;139 :e20163382.
  5. Kane JM, Colvin JD, Bartlett AH, Hall M. Opioid-related critical care resource use in US children’s hospitals. Pediatrics. 2018;141:e20173335
  6. Bicket MC, Long JJ, Pronovost PJ, et al. Prescription opioid analgesics commonly unused after surgery: a systematic review. JAMA Surgery. 2017;152:1066–71.
  7. Menendez ME, Ring D, Bateman BT. Preoperative opioid misuse is associated with increased morbidity and mortality after elective orthopaedic surgery. Clin Orthop Relat Res. 2015;473:2402-12.
  8. Harbaugh CM, Lee JS, Chua KP, et al. Association between long-term opioid use in family members and persistent opioid use after surgery among adolescents and young adults. JAMA Surgery. 2019;154:e185838.
  9. Adler AC, Yamani AN, Sutton CD, et al. Mail-back envelopes for retrieval of opioids after pediatric surgery. Pediatrics. 2020;145:e20192449