COVID-19パンデミック – 一般市民、医療従事者、および病院環境におけるマスク除染

Qisheng Ou, PhD; Chenxing Pei; Seong Chan Kim, PhD; Kumar Belani, MD; Rumi Faizer, MD; John Bischof, PhD; David Y. H. Pui, PhD

最前線にいる医療従事者の保護と、COVID-19パンデミック中の市中感染の軽減に不可欠なマスクの不足は深刻な状況にある。 1 使い捨てのフィルター式フェイスマスクとサージカルマスクを除染後に再利用することが必要な戦略となっている。 2, 3 ここでは3つの除染方法の使用根拠となる科学データを提供する。

マスクの除染

最前線にいる医療従事者の保護と、COVID-19パンデミック中の市中感染の軽減に不可欠なマスクの不足は深刻な状況にある。 1 使い捨てのフィルター式フェイスマスクとサージカルマスクを除染後に再利用することが必要な戦略となっている。2, 3 ここでは3つの除染方法の使用根拠となる科学データを提供する。

紫外線殺菌照射(UVGI: ultraviolet germicidal irradiation)法4 は、小さな除染室の真ん中にマスクをぶら下げ、マスク前背面から約1メートル離れたところにある2つのUVシステム装置 (Clorox Optimum-UV Enlight® System, 216 mJ/cm2) を用いて行われる。その装置からUV-C光が生成され、マスクを5分間照射する。オーブン加熱方式では、COVID-19ウイルスが70°Cで不活性化されるため、多くの家庭用オーブンの最低温度である77°C(170°F)を設定温度としている。5 熱損傷を防ぐために金属面に触れないようオーブン内のコーヒーフィルターの束の上にマスクを置き、目標温度で30分間加熱する。蒸気熱処理法の場合、沸騰水の入ったスチーマーラックにマスクを30分間置く。金属製のノーズクリップによってマスクと電子レンジのどちらも損傷する可能性があるため、この処理を電子レンジで行ってはならない。

3M 8210 N95マスク(ミネソタ州セントポール)、3M 1820プロシージャーマスク、および Halyard 48207サージカルマスク(ジョージア州アルファレッタ)の濾過効率と呼吸抵抗を除染処理の前後に測定した。Covid-19ウイルスのサイズは ~0.1 µmだが、6 呼気の液滴は数マイクロメートル以上になることがあり、水分蒸発により大気中を移動しながら小さくなっていく。濾材の効率は汚染物質のサイズに強く関わってくる。ここでは0.03から0.4 µmまでさまざまなサイズにおける分別効率を報告する。これは最も浸透性の高い粒子サイズ範囲を表し、Covid-19ウイルスまたは他の病原体のサイズと比較できる。図1に示すように、N95マスクはどのサイズ範囲においても95%を超える効率で、0.05~0.08 µmでは最も低い96%の効率、~0.1µmのCovid-19ウイルスサイズでは98%以上の効率である。サージカルマスクとプロシージャ―マスクは、N95マスクより効率が低くそれぞれ0.1 µmにおいて~85%と~80%である。3つの汚染除去処理はすべて、10回の処理後でも目に見える素材の変形や劣化を引き起こさず、濾過効率や通気性を低下させなかった。唯一の例外として、蒸気熱処理で10回の処理後にサージカルマスクの効率がわずかに低下した(平均5%未満)。これは、オーブン加熱の方が繰り返し再利用するには良い選択肢であることを示唆している。3つの除染方法は、手作りマスクにも使用できる家庭用布地材料のほとんどでも濾過を安全に維持することが試験で確認された(データは示していない)。私達のデータは、処理によって引き起こされるN95の効率または抵抗の系統的な変化はないことを示している。処理されたN95の抵抗のわずかな増加は、処理自体ではなく、サンプルの変動によるものである。テスト方法は破壊的であるため、貴重なN95とマスクを節約するためにサンプル数を制限した。

 図 1:新規未処理サンプルと比較した、3M 8210 N95、Halyard 48207サージカルマスク、および3M 1820プロシージャーマスクの除染処理サンプルの分別粒子濾過効率と呼吸抵抗(差圧)。

図 1:新規未処理サンプルと比較した、3M 8210 N95、Halyard 48207サージカルマスク、および3M 1820プロシージャーマスクの除染処理サンプルの分別粒子濾過効率と呼吸抵抗(差圧)。

この研究では、特定の研究者がTSI PortaCount® Pro+ 8038を使用して定量的フィットテストを実施した。周囲の粒子濃度とマスク内部の粒子濃度の比として定義されるフィット係数は、テストに合格するためには100以上が必要である。定量的フィットテストは、最初に新しい3M 8210 N95マスクを使用して実施され、次に同じマスクを使用して、77°Cのオーブン処理を1, 3, 5, 10サイクル施行後に実施された。2番目の3M 8210 N95マスクは、蒸気熱処理を1, 3, 5, 10サイクル施行後にフィットテストが実施された。表 1 に示すように、オーブン処理はマスクの保全状態とフィットについて安全と見なされるが、蒸気熱処理はマスクフィットに影響を与える可能性がある。すべてのフィットテストは、同一人物で行われた。

表 1. 新しいN95マスクの、オーブン及び蒸気熱処理後の定量的フィットテスト結果

同じマスクを使用していても、別の着用者でテストが行われた場合は、別のフィット係数が出ると考えられる。フィットテスト中、試験者は未処理のN95と処理済みのN95とで、通気性の点で違いを感じなかった。

結語

除染について3種の方法(UVGI、オーブン、蒸気熱)で試験を行ったが、それらが濾過効率とフィット係数を低下させないことが判明した。現時点での調査結果に基づき、再利用マスクは非常に効率的であるのみならず、10回まで繰り返し使用できると言える。さらに、これらの方法は病院だけでなく、多くの家庭環境でも簡単に利用できる。本研究は、未使用マスクの複数処置後の性能をテストしたものである。マスクの摩耗により保全状態と効率性が悪化する可能性があり、汚染除去によって回復はできない。目視できるほどに汚染されている、または材質の一部に劣化が見られるようなN95や他のマスクを再利用すべきではない。

 

協力者(すべてミネソタ大学関係者):

Qisheng Ou, PhD,機械工学科研究員

Chenxing Pei, PhD, 機械工学科学生

Seong Chan Kim, PhD, 機械工学科上級科学研究員

Linsey Griffin, PhD, デザイン科アパレルデザインAssistant Professor(日本の講師・助教に相当)

William Durfee, PhD,機械工学科教授

John Bischof, PhD, 機械工学科教授

Rumi Faizer, MD, 外科准教授

Kumar Belani, MBBS, MS, 麻酔科 教授

David Y. H. Pui, PhD, 機械工学科教授


著者らに開示すべき利益相反はない。Dr. Qisheng Ou、Mr. Chenxing Pei、Dr. Seong Chan Kim および Dr. David Y.H. Pui は等しく本書に貢献した。


References

  1. Livingston E, Desai A, Berkwits M. Sourcing personal protective equipment during the COVID-19 pandemic. JAMA. Published online March 28, 2020. https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2764031
  2. Decontamination and reuse of filtering facepiece respirators. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/ppe-strategy/decontamination-reuse-respirators.html.
  3. Coronavirus (COVID-19) Update: reusing face masks and N95 respirators: JAMA. Published online April 8, 2020. URL: https://edhub.ama-assn.org/jn-learning/audio-player/18433414
  4. Mills D, Harnish DA, Lawrence C, et al. Ultraviolet germicidal irradiation of influenza-contaminated N95 filtering facepiece respirators. American Journal of Infection Control. 2018;46:e49–e55.
  5. Chin AWH, Chu JTS, Perera MRA, et al. Stability of SARS-CoV-2 in different environmental conditions. The Lancet Microbe. Published online April 2, 2020. doi:10.1016/S2666-5247(20)30003-3
  6. Zhu N, Zhang D, Wang W, et al. A Novel Coronavirus from patients with pneumonia in China, 2019. New England Journal of Medicine. 2020;382:727–733.